エイズ治療薬を発見した日本人 満屋裕明

 

HIV感染(エイズ)という病気について聞かれたことがあるでしょう。かつてエイズにかかるということは死を意味していました。

それは、多くの若者や働き盛りの人が突然免疫機能を失い、細菌やウイルスにむしばまれ、肺炎やがんを発症してしまう病気でした。感染して2年以内に9割近くが死亡するとされていました。

しかし、状況は劇的に変わりました。今では早期に治療を開始すれば、まず死ぬことはないとまで言われるようになりました。根治することはできなくとも、薬を飲みながら普通に仕事をし、安心して子供を持つこともできるようになりました。

ある国の推計では、2000年〜2005年の間に25歳でエイズに感染した人の平均余命は32.5年とされています。現在はもっと延びていると言えるでしょう。今やエイズは「死に至る病」ではなく「持病」になりました。

動画:東京都内のエイズウイルス感染者 20代で過去最多

1. 日本のウイルス学者―満屋裕明氏

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満屋裕明(みつや ひろあき)氏は、熊本大学医学部内科学の教授です。1980年代からHIV治療薬の研究を行なっています。世界でエイズの治療薬として認可されている20種余りのうち、実に4種の薬剤を研究・開発しました。

1985年、アメリカ国立衛生研究所で世界初のHIV治療薬「AZT」を開発しました。アメリカでの特許は、実験に協力していたバローズ・ウェルカム社が取得し高価格でAZTを売り出すことになりました。

自らの意志とは異なる進展を見て、満屋氏はさらに新しいHIV治療薬の研究に励むことになりました。そして、世界で2番目と3番目のHIV治療薬の開発にも成功し、適切な価格での販売を条件として企業に提供しました。

2006年には、アメリカでの共同研究によって開発したHIV治療薬「ダルナビル」が、途上国で特許料を払わずに使える医薬品として、国連の機関に登録されました。それにより、感染症が蔓延する国や地域でも薬剤の使用が容易となっていくわけです。

2015年のノーベル賞・生理学医学賞の候補としても名が挙げられ、エイズ治療薬の研究が国内だけでなく世界的に貢献していることが明らかになりました。また同年の日本学士院賞を受賞し、治療薬研究の論文が広く認められることとなりました。

満屋氏は今も研究をつづけ、『安く、安全で、服用頻度の少ない』治療薬を開発しようとしています。

2.満屋裕明氏の考えるエイズ治療

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エイズ治療にはどんな課題があるのでしょうか。満屋氏によれば、これまでに強い抗ウイルス剤を複数種用いることで、ウイルスが血中から検出されなくなる、つまりウイルスを体から根こそぎ取り去ることができると思われていた時期もありました。

しかし、蓄積されたデータから分析して、結局ウイルスを取り去ることは不可能であることが分かってきました。一時的にウイルスの活動を抑え込めたとしても、いずれはウイルスが活発化してくるということです。

また、治療が進んでからも患者は薬の副作用に苦しめられ、さらに薬剤に耐性を持つウイルスを出現させてしまうことにもなります。エイズウイルスによって本来の免疫の力が戻らず、さらなる悪性腫瘍も生じてしまいます。

さらに、薬剤が高くて入手困難なために、世界のHIV感染者・患者のなかで、治療薬を手にできる人は10%にも満たないという点も、今後の課題として挙げられます。

そうしたなかで、満屋氏は従来と違うタイプの薬の開発に取り組みました。これまでの治療薬は、ウイルスが人の白血球細胞の中に入ってから退治しようというものでしたが、新たな治療薬は違うものです。ウイルスを細胞の中に入らせないようにする、「侵入阻害剤」と呼ばれるものです。

侵入阻害剤とは、ウイルスが細胞の中に入る動きのメカニズムを解析し、その導線上で阻害しようというアイデアでした。研究の積み重ねによって、ウイルスが細胞の中に入るプロセスは大変複雑なもので、その動きを妨げるには小さなもので邪魔をすれば十分であることが分かってきました。

満屋氏は、細胞内への入り口となる「レセプター」の重要なところに取り付いてウイルスの侵入をブロックする物質をデザインすることに成功しました。

「AK602」と呼ばれるその薬剤は、口から飲んで血中に入り、レセプターのひとつである「CCR5」に吸着します。とはいえ、「CCR5」の働きを完全にブロックしないよう調整されました。

レセプターは細菌が入ってきた時に炎症を起こす働きがあるため、その機能を邪魔することなくフタをする薬を作ることが重要だったのです。

様々な開発段階を経て、2004年の初めには40人のエイズ患者を対象に、試験的な投与が行なわれました。副作用もほとんどなく、エイズウイルスが最大で70分の1以下になりました。非常に強い抗ウイルス効果が証明されたわけです。

エイズウイルスは薬剤に対する耐性が非常に強く、新薬として飲まれる薬に対しても数年、数十年後には抗体が生まれているかもしれません。それでも、現代の胃薬や高血圧の薬のように、一日に1度か2度の服用で症状を抑え込めるようになっていくことでしょう。

HIV感染は、今や死に至る病とは呼ばれなくなりました。満屋裕明氏と、共に協力している方々に世界中の多くの人が感謝していることでしょう。

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