アンコウ 深海ゆえの苦労のメスとオスの生態

 


日に日に寒さが増してきて、鍋料理の恋しい季節となってきました。鍋蓋をパッと開けたときの白い湯気とその香りは、もやのかかった知らない道から抜け出したかのようなしあわせの瞬間です。

「西のフグ、東のアンコウ」と並び称せられるほど、高級魚として名高いながらも、スーパーなどでも売られている身近な魚の割には驚くほど不思議なその生態は、あまり知られておりません。

また、東日本、特に茨城県が名産ではありますが、2000年には何と下関が漁獲高一位となり、もともと有名なフグとともに、アンコウも地域名産品として売り出しています。そんなアンコウとはどういう魚なのでしょうか。

<深海の太公望>


光の届かない深海で、先の光る疑似餌をユラユラさせて獲物をおびき寄せて、近づいた魚を丸飲みする様は「深海のハンター」とも、また釣り竿を揺らしながら当たりを待つ太公望をも想像してしまいます。

通常は深海で待ち伏せて小魚を食べますが、まれに水面に上昇して鳥を狙うこともあり、捌いてみたらカモメやウミガラス、ペンギンなどが出てくることもあります。

丸飲みなので、胃袋の上下に2本ずつ歯のような突起があります。これで噛むわけではなく、丸飲みしたエサが出ていかないようにするためにあります。

でもすべての種類のアンコウが光るわけではなく、日本でよく食べられているキアンコウなどは光りません。ただ、ポンポンのように振っているだけです。その意味では「深海のスクールメイツ」とでも言ったほうが良いのかもしれません。

チョウチンアンコウも自ら光っているわけではなく、光る微生物を住まわしているに過ぎません。

ただし、1967年、鎌倉の海岸に打ち上げられたチョウチンアンコウを8日間飼育した江の島水族館での研究によれば、発光生物の共生ではなく、自らに体内で生成した発光物質ではないかとの説があります。

ちなみに、あのユラユラさせているフサフサな部分は「エスカ」、棒状の部分は背びれを変化させたもので「イリシウム」と呼ぶそうです。このチョウチンアンコウの生態は驚くべきもので、オスのチョウチンアンコウは「アンコウの肝」ならぬ「アンコウのヒモ」なのです。

<チョウチンアンコウの不思議な世界>


通常、日本人が食用にしている「アンコウ」「キアンコウ」は500m位までの海に棲んでいますが、チョウチンアンコウはさらに深い700m以下のところに暮らしていて、メスは体長が60㎝に成長するのに対し、オスは4㎝ほどしかありません。

オスは性成熟すると、口がペンチ型に変形します。敏感な鼻でメスの発するフェロモンを探します。疑似餌つまり「エスカ」の部分の形状で種類を見分け、同じ種類のメスを見つけると歯をメスの体に突き刺してペンチ型の口で固定します。

オスは寄生すると口から酵素を出し、メスの皮膚が伸びてオスを包み込んでいきます。やがて、オスとメスは細胞レベルで一体化して不要なひれが退化していき、やがて、脳、心臓、血管が全て吸収され、精巣だけが残ります。

産卵の準備が整うと、メスからの合図でオスが放精します。ちょうどカエルの卵のようにゼリー状に産卵した卵は精子を取り込みゆっくりと海面に浮上していきます。

これは、本来たくさんのメスと交尾をして子孫を残したいところですが、深海ではオスとメスがなかなか出会うことができないことや、そもそも深海にはエサが潤沢にあるわけではないので、エサを取りあうことを減らすためだと言われています。

<アンコウの稚魚は>

孵化した稚魚は、しばらくは海面近くでプランクトンを食べながら成長し、何度かの変態をして、少しづつ生活の場を深海へと移していきます。このため、たまにアンコウの稚魚が釣れることがあります。



成魚でもそうなのですが、ヒレを手のように使って海底を移動することがはっきり見てとれる動画です。海底にじっとしている魚ですから、他の魚にある浮袋はアンコウにはありません。

先ほど触れました雌雄が同体化することに関してなぜ拒絶反応が起きないのか、まだ解明されておりませんが、その仕組みは医学への応用が期待されています。

<アニサキスについて>


アニサキス

アンコウの身は、その見た目とは異なり、全体的に水分が多く淡泊な白身です。この身と野菜の持っている水分だけで調理した鍋が「どぶ汁」と呼ばれるものです。

アンコウを特徴的な味わいにしているのは、何といってもキモでしょう。キモにはビタミン、ミネラルが豊富に含まれ栄養満点な部位で、以前は生食されることもあったのですが、最近ではお目にかかりません。

これは魚介類に寄生するアニサキスと呼ばれる回虫が存在している場合があり、これによって食中毒になることがあるからです。ただし、60℃で一分以上加熱すれは死滅しますので、鍋などでは全く問題ないと言えるでしょう。

顔と骨以外のすべての部位を食べることができて、ほとんど捨てるところがないと言われるアンコウです。

意外に寿命が長く、私たちが食用としているものは8年物で、だいたい10年くらいは生きるようです。とても不思議な生態で、深海で疑似餌を使い今日も獲物を待っていることでしょう。

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